煙と馬鹿と俺 2.1


八ヶ岳縦走(2日目 本沢温泉 – 3日目 うみじり駅)
12月 30, 2008, 3:45 pm
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崖の上から見える温泉は、都内で適当に人を捕まえて温泉のイメージを聞いたときに出てくるようなそれではなく、家の中にあるべき浴槽が何かのきっかけで外に飛び出してしまったような、そんな温泉だった。

はやる気持ちを抑えながら、温泉に向かう道を進む。まだ2,000mを越えているはずだが、すっかり辺りは草木の領土となり、「千と千尋の神隠し」で千が白に連れられて豚小屋に向かうときに通ったような、そんな道をゆっくりと下っていく。

少し開けた場所に到着し、辺りを見回すと看板を発見した。
特にこれといった施設も無いのだが、どうやら600円もかかるらしい。

だが、この道をそのまま温泉に向かったものの、料金を払うための何かが存在していなかった。
料金を払うためには、一度どこかに歩かなければならないのか・・・・。
軽いショックを味わいながら、丁度温泉から出てきた様子の親子に料金の事を尋ねると

「あ、ここから5分ぐらい歩いた山小屋に払うのよ~」

とおばちゃん。
がっくりと肩を落としつつもお礼を言い、来た道を折り返し始めたところ、後ろから駆け足で何かが近づいてきた。
何かと思って振り向くと、先ほどの親子の若い方(きっと娘だろう)がこちらに向かって走ってきた。

「あのっ、私達もう戻るので、お金代わりに払っておきましょうか?」

女 神 降 臨

その時僕の目には確かに光に包まれた笑顔が見えた。
最大限感謝の気持ちを伝えながらお金を渡すと、追いついてきたおばちゃんが

「あたしがちゃんと着服しないように見張っとくから!」
「そ、そんなことするわけないでしょ!」

良い親子だと思った。

 

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ともあれ、直接温泉にいけるという事で意気揚々と温泉に向かい、5人ほどの列の後ろに座る。
近くで見ると、板の間(ここに靴を置いたり荷物を置いたり、服を置いたりする)、浴槽(畳2畳分ぐらい?)という構成で着替える場所などはやはり全く無いことが分かった。
お湯は乳白色で風呂に浸かっている人の体は全く見ることが出来ないが、出てきた人はその場で着替えているようだ。

女性はどうしてんのかなー、と思った矢先に浴槽から濡れ濡れのおばーちゃんが出現した。

装備品:スケスケTシャツ

あまりの事態に目が離せなくなる俺。
おもむろにこちらに背を向けたかと思うと膝を曲げずに足元に手を伸ばすおばーちゃん
強烈だった。

繰り返すが、装備品はスケスケTシャツだけだ。
その直後におじーちゃんも出現し、やはり濡れ濡れだったが、こちらはそれほど破壊力は無かった。

だが、このことは列に並ぶ人に話しかけるきっかけを作ってくれた。
このblogを始めるきっかけにもなったcreppさんと93さんとはこの時に出会った。
世の中、何がどう転ぶのかわからない。

 

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風呂に入っている最中、自分が野宿であること、寝袋も無いことを話したのだが、周りの人たちの反応を見て、自分がいかに無謀な事をしているのか再認識することとなった。
しかし、この話は会う人とみんな仲良くなることが出来る。
昨日泊まったたかね荘では、オートキャンパーを眺めて指を咥えていたのだが、この辺りまで来ると初挑戦の気負いも抜け、自分が貴重な体験(やらなくて良いという人もいるかもしれないが)をしている実感がわいてきた。
僕はして良かったと思うし、興味がある人は宿泊するための道具を何も持たずに行ってみるのも良いと思う。
ただし、そこで何が起きても自己責任で。

僕が入っている間、両親と男の子が一緒にいたのだが、足の裏に砂利がついたままパンツを履くことを嫌がる子供にお父さんが一言

「寝袋もなしに”こんなところ”まで来てるおにいちゃんがいるんだぞ!少しは見習いなさい!!」

その後子供がぐずることは無かった。

れ、例に出るのはかまわないんですが、見習わせていいんでしょうか・・・。

風呂から出た後は寝る直前までcreppさんのテントの近くで過ごし、コーヒーをいただいたり、色々と話をするうちに、あっという間に時間が過ぎて行った。

本当に、楽しい時間が過ぎるのは早い。
いつか、僕の目の前に山を始めたばかりで何も道具が無いやつが現れたら、コーヒーをいれてやるぐらいの準備はしておこうと思った。
後、そんな場所に一緒に行けるパートナーも欲しいと思った。

 

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本当はcreepさんのテントの横で寝ようかと思ったのだが、雨が降り始めたため、山小屋の横の屋根付きのベンチに移動。
雨はすぐに止んだのだが、丁度中秋の名月だったらしく、とても大きく丸い月が出ていて辺りが明るかったこと、川のすぐ横なので水音が聞こえたこと、鳥らしき泣き声が夜中の4時頃まで鳴り響いていた事とか、色々な原因で浅い眠りの中で夜をすごした。

 

 

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ここから帰りの道は小さな秋を見つけながら、段々と重くなってきた足を一歩ずつゆっくりと進めていく作業だった。
全ての旅行においてそうであるように、行くときはどんなに遠くても気にならないのに、帰りは少しの移動でもとても億劫だ。

さらに、一度道を間違えた事も、疲れを増すのに一役買っている。
稲子湯という温泉に帰りに寄って、そこからはバスで電車の駅に向かう予定だったので、徒歩で移動するのは2時間、しかも温泉というご褒美付きのはずが、2時間歩いたら完全に下山してしまって、温泉どころかそこからさらに1時間半ほど歩いて電車の駅まで向かった。

 

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小海線のうみじりという駅に着いたときは、感動とかそういう感情ではなく、沸きあがってきたのは安心感だった。
これで何があっても家に帰ることが出来る。そんな安心感だった。

 

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こんなになりながらも最後まで僕の足を守ってくれた登山靴に感謝。
包帯は怪我とかではなく、登山靴のソールが取れてしまったので、固定のために巻いている。

 

 

と、ようやく書き終わりました。
ところどころ、読みにくい場所もたくさんあったと思いますが、初めての山登り、初めての縦走、その時の気持ちをそのままかけたんじゃないかなー、と思います。

山の中で出会った全ての人にありがとう。

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八ヶ岳縦走(二日目 横岳登頂)
10月 20, 2008, 3:50 pm
Filed under: mountaineering, 八ヶ岳 | タグ: , ,

 

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赤岳の山頂には、太陽が一番高い所から少し下がってきた午後1時。
山頂の横にある山小屋の前では皆が思い思いの岩に腰をかけ、お湯を沸かしたり、キュウリをかじったりしていた。
僕はというとカロリーメイトの一袋をあけ、水と一緒に飲み込んだ。

山の稜線は遥か前方に延び、人が歩く場所が白茶けた線となって山頂から山頂へと線を引いていく。
森林限界に到達しているのか、ある地点を過ぎると木と呼べるものはほとんど見かけなくなり、くるぶし辺りまで伸びている草すら稀になっていた。
青々とした下草と白茶けた岩とのコントラスト、それを包む空の青さが、その中に浮かぶ雲の白さがたまらなく美しい。

 

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登り始める前に今夜の宿を、と考えていた赤岳鉱泉を探すと、遥か山の麓の方にそれらしき施設群を発見した。
どうやら、僕は大きな勘違いをしていたようだ。山から下りずに一晩過ごせる場所として、温泉のある赤岳鉱泉に目星をつけていたのだが、一度山を完全に降りなくてはならないらしい。

自分の勘違いであることを祈りつつ、コンパスと地図を見比べる。
残念ながら、今回は自分の勘違いではないようだ。

僕は地図をしまいこみ、肺から一度大きく空気を吐き出すとザックを背負いなおし、赤岳から1時間程のところにあり、
八ヶ岳の中で主峰赤岳に次ぐ高さを持つ横岳へと向かった。

今までの道中と違い、赤岳から横岳への道のりは心躍る岩場の連続だった。
一歩山とは逆の方向に足を踏み出したら、後はそのまま気持ちよく死ぬことが出来そうな、
そんな魅力的な崖が連続して存在していて、もし自殺したくなったらここに着てみようとか、
ここまで来てしまったらもう自殺するつもりなんてなくなっちゃうかな、とか考えていた。
それぐらい、吸い込まれそうな緑の絨毯だった。

 

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いつしか僕も行き違う人たちと、自然に言葉をかけあうようになっていた。

「こんにちは」

「どちらまでいかれるんですか?」

「先に行ってください」

「どちらから?」

「良い眺めですね」

なんのことはない、ごく普通の言葉。
それらがお互いの存在を強く意識させる。
自分が言葉を発する生き物であることを思い出す。
あまりにも大きな存在の中で生まれる一種の連帯感だろうか。

ある岩場に差し掛かったときに僕は辺りが騒がしいことに気がついた。
うわー、とかあー、とか言う声が前後の人たちから上がる。
辺りを見回してみると、
太陽はまだ空の上の方にあり、僕の進行方向の左側、つまりは西側から、強烈な光を放っている。
右側は越えられない壁に苦しむ雲が僕の足元に広がっていた。

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と、そのとき僕の影が何も無い空間の奥に向かって、歩き始めた。
実際には歩いていく訳がないのだけれど、自分の影が、何も無いはずの空間に投影されているのだ。

 

 

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そして歩き始めた影の先端に丸く虹が生まれた。
一瞬の空白の後、湧き上がる感動。
僕の足はしばらく前に進むことを忘れ、手を伸ばせばそのまま虫かごにしまって
持ち帰れそうな景色に見とれた。
実は最初に一瞬現れた時には写真をとることを忘れてしまった。
もう一度、もっと鮮明に見せてくれたのはサービス精神旺盛な太陽のおかげか。

そこからさらに少し歩いた岩場の前で一息入れていると、そこで腰を下ろしていたおじさんに話しかけられた。
僕の倍ほどもあるザックをおろして、水分補給はそこから延びたチューブで行っていることから
彼がこの山に限らず登山を趣味としている人であることは容易にうかがい知ることが出来た。

「どこまでいくの?」

僕はこの質問が苦手だった。何故なら僕には目的地が無いから。

「どこまでいけるか考えてます」

こう答えると、若さをうらやむか、少し顔をしかめるか、どちらかの反応をして会話が終了することは
ここまでの経験で知っていた。だが、彼は違った。

「じゃあ、あんた若いから本沢温泉まで行ったら良いよ。
テン場もあるし、俺もそこいくから。ここからでも5時過ぎには着けるだろ。」

リミットの15時が迫ってきている中、目的地を定めることが出来ていなかった僕にとって
この言葉には大変助けられた。目標の一つとして候補には上げていたものの、
コースレコードを見る限りで日が暮れてしまうため、諦めていた場所のひとつだったのだ。

もう少し休むというおじさんに別れを告げ、進み始めた僕の足取りは思いの他軽くなっていた。
体力があるうちはどこまでいけるのかを考えながら進むのも楽しいのだ。
しかし、目減りする体力と、差し迫る時間とを考えながら目的地を定める、
それも全てが初めての場所で。
これには思いの他やられていたらしい。

 

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その後もいくつか岩場を乗り越え、ようやく横岳に到着したのは行動のリミットとして
きつく言い渡されていた15時のことだった。
一応現実的な範囲で目的地も定まっていたし、山の経験者が大丈夫だと言うのだから、きっと大丈夫なのだろう。

ここから先、本沢温泉に至る道には八ヶ岳で3番目に高い硫黄岳(2,760m)があり、そこから一気に500メートルほど下った
2,150m地点に本沢温泉はある。
日本最高地点にある温泉なのだとか。楽しみだ。

 

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